目次
概要
このシリーズは大会で結果を出したリストを取り上げて、各カードの採用理由や、ヒーローの勝因を推理・考察するシリーズです!このシリーズを読んでいるだけで、「基礎的なカードの使い方」から「環境に合わせて採用すべきカード」や「ヒーローの選び方」が培われていくはず!という企画になります。
今回はロゼッタシーズン 2024年9月-12月のリストになります。
本文
GoAgainMedia攻略記事担当のdokuiroことTansei Hiroyukiです。
今回取り上げるデッキは2024年11月1日~3日にかけて開催されたWorld Championship: Osakaで栄冠あるTop8に輝いたデッキ達!
具体的には《ヴィセライ》、《ヌゥ》、《エニグマ》になります。
優勝したCYBエニグマにいては前々回、他Top8のヒーローである《ダッシュ I/O》と《アウローラ》については前回で解説しております。
5位 Noah Beygelman選手の《ヴィセライ》リスト分析
Fabraryリンクはこちら
Noah Beygelman選手の《ヴィセライ》は一般的なアグロ《ヴィセライ》をベースに、独自の調整とやりこみを感じるリストです。「ロゼッタ」発売以降の《ヴィセライ》は新戦力の《邪悪な詠唱》、《ルーンレイジャーの群れ》、《デッドウッドの哀歌》を採用し、カードを殆どピッチせずに強力な攻撃を連打することが可能なアグロデッキに進化しました。この辺りの経緯は「ロゼッタ」環境初期にこの《ヴィセライ》の原型となるリスト(Fabraryリンクはこちら)を使用したBrodie Spurlock選手にインタビューした記事(リンクはこちら)も参考になるかと思います。
このアグロスタイルの《ヴィセライ》のリストが活躍しだしてから1か月ほどが経った世界選手権での《ヴィセライ》は上記のアグロ的な要素を残しつつ、元のリストでは見受けられなかったカードを複数枚採用しています。具体的には《銀河のソナタ》、《ルーン陣への変換》のような4点防御リアクション、《隠魔の祝福》といった一見使いづらそうなオーラなどなど…一見「アグロ」のコンセプトにそぐわないカードが複数枚採用されています。
これらは何故採用されるようになったのか?
それは、《ヴィセライ》が持つ「アグロヒーロー」としての側面と「セットアップヒーロー」としての側面を理解すればこれらの採用理由が見えてきます。
前述した通り、現在の《ヴィセライ》は基本的にアグロとして構築されています。その際、活躍するのは《死の濁流》、《轟く暗黒のヴェール》、《ルーンレイジャーの群れ》、《ルーンブラッドの饗宴》などのカードで、「手札複数枚を1ターンに使用して20点超えのダメージを出す」という動きを目指す構築になります。
もう一つの側面は「セットアップヒーロー」です。こちらは、手札複数枚を攻撃に使用するのは苦手ですが、例としては3枚を防御に使用しながら《ルーン占い》をプレイして《ルーン陣》を蓄えてターンを終了、といった動きをすることをコンセプトとしています。《銀河のソナタ》で《邪悪な詠唱》や《隠魔の祝福》、《ルーンブラッドの防壁》などをサーチするのも《ルーン陣》の蓄えに貢献してくれます。
こういった「セットアップ」プランがうまくいけば、防御しながら《ルーン陣》を貯めていき、《ルーン陣》を10数個や20個ほど貯まってから攻撃を開始することで、CYB《エニグマ》や《ヌゥ》などのファティーグを狙ってくる相手に、防ぎきれないほどのダメージを与えることができます。ファティーグを狙ってくるヒーローのほとんどは防御リアクションを複数枚採用していますが、《ルーン陣》を貯めて攻撃せずに終了、という動きをすればそれら防御リアクションを腐らせることができるのも利点ですね。このリストは特に「セットアップ」用のカードを増量しており、それが《銀河のソナタ》や《隠魔の祝福》です。
つまり、この構築はアグロミラーなどはアグロ戦略を軸に、ファティーグを狙ってくる可能性がある相手にはセットアップ戦略を軸に構築を変化させることができる「二刀流」の構築という訳です。
更に、このデッキは《群青に沈む》《ルーン陣への変換》《戦慄の演奏》と3種9枚の防御値4点のカードを採用しています。
これにより、《ヌゥ》の攻撃リアクションを絡めた手札破壊を後出しで防ぎながらセットアップを進めたり、《ダッシュ I/O》相手に防御値2のカードと入れ替えることでファティーグを狙うことも可能になるでしょう。
本来《ヴィセライ》と相性の悪い《戦争屋の外交術》が3枚採用されている点も非常に驚くべきポイントですが、《ダッシュ I/O》にファティーグを狙う際にビッグターンを防ぎながらアイテムの寿命を減らしてくれる点や、「セットアップ」プランを取る際は「平和」を宣言すれば自分に被害がないと考えると納得です。
他、《群青に沈む》を3枚サイドインすれば《アウローラ》の《スナッチ》や、《ゼン》の《苦汁の棘》などの4点のヒット時効果を持つカードを防ぎながらライフレースをしたり、攻撃しかない手札を入れ替えて、非攻撃アクションを探すといったプレイを可能にしてくれるため、アグロとのライフレースでも役立つでしょう。
多くの《ヴィセライ》のリストでは《超秘術のソナタ》が3枚採用されていますが、攻撃アクション:非攻撃アクションの比率が1:1であることを要求する点が邪魔となり、《超秘術のソナタ》は抜けているようです。《超秘術のソナタ》を採用しながら防御リアクションを複数枚採用したり、非攻撃アクションを増やしたサイドインをするのは難しいですからね。
他、3枚採用が基本とされていた黄色《邪悪な詠唱》や《誘惑への屈伏》、《骨鳴らし》を2枚採用に抑えていたり、アグロミラーで役立つであろう《秘術の呪詛》をピン採用していたり、独自の調整とやりこみをかなり感じるリストとなっています。
5位 Michael Hamilton選手の《ヌゥ》リスト分析
Fabraryリンクはこちら
《ヌゥ》については日本選手権優勝のリストについて分析している(リンクはこちら)ので、比較すれば「ロゼッタ」による影響が見えて面白いかもしれません。
Michael Hamilton選手の《ヌゥ》は《祝福への感謝》(《Count Your Blessing》)通称”CYB”を9枚採用している、ファティーグに特化したタイプの構築です。
ヌゥで使用する”CYB”は例えば手札が3枚ある状況から《苦悶の束縛》や《惹きつける予後》などの攻撃アクションをプレイし、相手が攻撃リアクションを恐れて複数枚のカードで防御してから”CYB”をプレイすることで一気にライフの差を生むことが可能です。
また、青ピッチして《擦れ音》《毒の噛みつき》などをプレイしながら浮いた2リソースを”CYB”に活用することも可能です。
他、序盤の黄や青の”CYB”はプレイすると、2リソースを使用して1-2点の回復と表現価値的に弱い点が難点ですが、手札に”CYB”を残してる状況で《虚弱症の魔本》をプレイして捨てることで、プレイせずとも墓地の”CYB”カウントを増やすといったプレイが可能です。これは《エニグマ》などにはできないテクニックですね。
《ヌゥ》の各種攻撃アクションやヒーロー能力によるデッキ削りにより、相手のデッキから出る総打点を減らしながら”CYB”で回復することにより、アグロデッキやミッドレンジデッキにファティーグを狙いやすい構築です。反面、普通の《ヌゥ》と比較すると、攻撃的なカードが減っていることから《エニグマ》への耐性は下がるであろう点や、防御値がないカードが増えているため、ヒット時能力が通りやすくなるのは見逃せないデメリットでしょう。
“CYB”は青がCCフォーマットにて使用不可となる規制を受けましたが、11月22-24日に開催されたCallingポートランド(詳細はこちら)で準優勝となった《ヌゥ》は6枚になった”CYB”を搭載しているリストでした。今後も”CYB”は環境に影響を与え続けそうです。
5位 Valentin Mackl選手の《エニグマ》リスト分析
Fabraryリンクはこちら
優勝した《エニグマ》(詳細はこちら)と異なり、こちらの《エニグマ》は”CYB”を採用していないリストとなります。《エニグマ》の基本的な戦略についてはBH東京優勝のリストを分析する際に解説していますので、よろしければどうぞ。(リンクはこちら)
目を引くカードは《一万年の再結成》と《熟練魔導師のブーツ》のパッケージ。こちらはミラーマッチで大きな影響力をもちます。以下、その理由を解説します。
《エニグマ》ミラーはいわゆるマウントを取り合うゲームであり、如何にして「自分の結界オーラを展開して維持し続けるか」といったゲームになりがちです。結界オーラを守りながら自分だけ結界を展開し続ければ、「弱い結界で強い結界を守る」といった有利な防御もやりやすくなり、優位を握っている方がより優位になり、40vs0のライフでゲームが終わることもしばしばあります。
なので要点は「相手の結界を壊す、切り返しの手段」と「優位を築く強力な結界オーラ」になります。
前者、切り返す手段として現在非常に流行しているのが《星霊の食刻》です。《霊気の盾》トークンがあれば攻撃リアクションのように結界の攻撃を強化でき、更に続行が付与されるため、「相手の防御を乗り越えて相手の結界を破壊する」「結界による連続攻撃」が可能になり、一挙両得です。腕装備《制音の仕草》によりいつでも《霊気の盾》トークンが作成できるようになったことから各段に使いやすくなり、一気に採用数を伸ばしました。
そして、《霊気の盾》と《星霊の食刻》が揃った場合、《一万年の再結成》の「オーラから+1カウンターを合計3つ取り除く」ことによる代替コストによるプレイが可能になります。
《一万年の再結成》は続行を持たないアクションなので、プレイするとターンが終わってしまい、「結界10」による攻撃は活かせないことが多いです。しかし、《熟練魔術師のブーツ》で《一万年の再結成》に続行を付与すればプレイしたターンに10点で攻撃可能になります。結界10による10点の攻撃は手札3枚で防御しても防ぎきれないため、相手の結界を破壊するか、返しの反撃手段を奪うには十分です。さらに結界10により相手の《Phantasmaclasm》などの大きな攻撃値による反撃を1枚で受け切り、他の結界オーラを守ってくれます。一見困難なコンボですが、装備品2種のおかげで再現性はあり、《一万年の再結成》と《星霊の食刻》を揃えれば、後は4リソースあれば上記の動きは可能です。《エニグマ》ミラー以外にも、結界10が強力なマッチアップ、《アザレア》や守護者クラスなどにもこれらのパッケージは強力です。腕装備《静音の仕草》は《エニグマ》を一段上の強さに押し上げた装備でしょう。
他、細かいところで、環境に合わせた渋いカードの採用も光ります。
《波紋消散》は《ヴィセライ》に有効で、ヒーロー能力による《ルーン陣》の作成は防げませんが《邪悪な詠唱》などによる作成は制限できるため、《ルーンレイジャーの群れ》に続行が付くのを防ぐことができたりします。
《濃い青の霞》は《ダッシュ I/O》に特に有効です。《ダッシュ I/O》が《High Octane》をプレイしたターンには武器《共生の銃撃》を5-6連発撃ってくるようなことがありますが、その際に持っていると大きなバリューが得られるため、ファティーグを狙うのが一気に楽になります。
《一時停戦》は結界を展開しながらプレイすることで相手の結界を狙った攻撃を防ぎやすくなったり、ファティーグを狙う際にも貢献してくれる青い防御値3のカードです。
以上です。長くなりましたが、この記事をもってWorlds Championships 2024のデッキリスト分析を一段落とさせて頂きます。
私自身もWorlds本戦への参加選手として、「ロゼッタ」発売以降、ずっとメタゲームについて考え、調整を続けていました。この環境の結実とも言えるWorldsトップ8のリストはどれを見ても、「確かにこの環境ならこのカードが強いか」「このデッキへの対抗策としてこれがあったか!」「アグロに強い《エニグマ》がCYB《エニグマ》なら理論上最強かぁ…」「《ダッシュ I/O》でファティーグに対抗するためにこんなコンボできるんだ!」と刺激になり、学びのあるものでした。
読者の皆様にも楽しんで頂けていれば幸いです。
以上です。お読み頂きありがとうございます。
Hiroyuki Tansei/どくいろ @fab_dokuiro
お気に入りヒーロー:《Lexi》,《Fai》,《Kayo》
お気に入りカード:《Art of War》
ホームショップ:TableGameCafe’Shuffle、TCG Shop Go Again
史上初の日本選手権で優勝。CallingTokyoTop8。日本屈指の強豪プレイヤー。手数、打点を読む洞察力が強み。アグロデッキが得意。
みんなのコメント
-
カード名を日本語版で表記いただいてて助かります。
《Sonata Galaxia》もHVYで日本語出てるので
《銀河のソナタ》で表記統一しても良いかと -
エニグマのFabraryリンクはありますか
-
コメント失礼致します。いつも参考にさせていただいております。
霧隠れから始めてまだルールが曖昧な箇所があるため質問コメントさせていただきますのでよろしければご教授お願い致します。
波紋消散のような相手ターンで使用する場合のインスタントカード使用タイミングについてなのですが、
相手が非攻撃アクションカード使用時はどのステップで使用可能なのでしょうか?あるいは非攻撃アクションの場合は優先権は発生しないのか教えていただけたら幸いです。
よろしくお願い致します。 -
返信いただきありがとうございます。
分かりやすい説明していただいたおかげで理解できました。
今後も参考に楽しみたいと思います!ありがとうございました。
コメントを残す
「コメントを送信」ボタンを押すとガイドラインに完全に同意したものと見做されます。
規約に違反する書き込みは削除・編集が行われる可能性がございますので何卒ご了承ください。