概要
このシリーズは大会で結果を出したリストを取り上げて、各カードの採用理由や、ヒーローの勝因を推理・考察するシリーズです!このシリーズを読んでいるだけで、「基礎的なカードの使い方」から「環境に合わせて採用すべきカード」や「ヒーローの選び方」が培われていくはず!という企画になります。
今回はロゼッタシーズン 2024年9月-12月のリストになります。
本文
GoAgainMedia攻略記事担当のdokuiroことTansei Hiroyukiです。
今回取り上げるデッキは2024年11月1日~3日にかけて開催されたWorld Championship: Osakaで優勝した《祖先の記録者、エニグマ》!
環境分析
World ChampionshipはFaBの世界最高峰の大会です。今回はその背景となる環境、メタゲームはどのようになっていたのか、というところから触れたいと思います。
1.《ゼン》の規制と《エニグマ》の隆盛
まず、2024年9月4日、大量の禁止改定があり(詳細はこちら)、《Bonds of Ancestry》や《Art of War》の規制によりそれまで猛威を振るっていた《目的を手懐ける者、ゼン》の影響力が大幅低下。
これまで《ゼン》に不利で活躍できていなかったが中速以降のデッキ全般に高いポテンシャルを持つ《祖先の記録者、エニグマ》の活躍が予想されました。実際、環境最初期のBH東京にて《エニグマ》が優勝(詳細はこちら)。今後の環境が《エニグマ》を中心に動いていくことが予期されました。
2.9月末~10月中旬、「ルーン剣士」の隆盛
2024年9月20日にRossetaが発売され、新ヒーローである《アウローラ》と《フローリアン》や、新カードで強化された《ヴィセライ》の3種のルーン剣士が各地の大会で結果を出し始めます。
10月の間、世界各地で開催された競技レベルのトーナメントであるプロクエストが、この環境を把握するのに役立つため、その結果を振り返ります。
10月初週のプロクエストの優勝ヒーローを纏めたこの図は、この時期の環境を象徴しています。《エニグマ》を最大母数としつつ、上述の「ルーン剣士」3名が続き、その下に《ヌゥ》や《アザレア》が続く形ですね。特に《アウローラ》と《ヴィセライ》はアグロデッキとして《エニグマ》に僅かながらも有利を付けやすく、大きく数を増やしています。《フローリアン》は中速デッキとしてアグロとはある程度フェアに対戦でき、雑多な相手や《ヌゥ》などのヒーローに有利を取り活躍しました。
3.10月中旬~《ダッシュ I/O》の強化
更に10月18日(金)に発売された「Armory Deck:Dash」にて《ダッシュ I/O》が強化。一躍Tier1のヒーローとなります。(Armory Deck:Dashについて解説した記事はこちら)
10月19-20日に開催されたプロクエストにて、10名の《ダッシュ I/O》が優勝という結果は、強化を受けたてで最適解が共有されていないデッキとしてはとても多い勝利数です。アグロデッキの中でも特に打点が出るので、アグロミラーに強く、世界選手権に参加するデッキとしても有力候補となりました。
4.10月下旬~《ヌゥ》の活躍
《ダッシュ I/O》の活躍を受けて、10月最終週は《ヴィセライ》と《ヌゥ》の活躍が目立つ形となりました。
《ヌゥ》は《ダッシュ I/O》に対してファティーグを狙いやすく、ポジションが相対的に向上する形となりました。《ヴィセライ》はアグロの中では《ヌゥ》とある程度フェアに戦うことができ、かつ《ダッシュ I/O》にも先手を取り自分が強い動きをすれば勝つ展開を作れる為、こちらも相対的に立ち位置が良くなったのでしょう。ただ、基本的には《ダッシュ I/O》の方が打点の出力は高い試合となります。
プロクエスト全ての結果を振り返ると《アウローラ》《エニグマ》が優勝数2TOP、《ヴィセライ》《フローリアン》《ヌゥ》《アザレア》《ダッシュ I/O》《ゼン》の6ヒーローが続く結果となりました。私も一参加者として、上述のヒーローが世界選手権の殆どを占めると考えました。
大きく分けるとアグロヒーローが4種、中速ヒーローが2種、エニグマというメタになり、
相性としてはざっくりと上記のようになります。赤矢印が有利、青い=は五分となります。ヒーロー内のアーキタイプや調整により有利不利は変動しますが、概ねのイメージでは上記です。
ここから《ダッシュ I/O》がファティーグ耐性を高めることができるのか、《エニグマ》はアグロ耐性を高めることができるのか、といった点が焦点となりました。苦手なデッキへの耐性を上げることに成功すれば理論上、全ての対面に有利なデッキが作れますからね。
そして、実際に世界選手権に持ち込まれたヒーローは以下です。
これまで確認したプロクエストの総括に近い結果となっており、最大勢力としては《エニグマ》、《アウローラ》が続き、そこに新規戦力である《ダッシュ I/O》が割り込む形となりました。《フローリアン》は数を減らし、《ゼン》が数を増やしたのが大きな差でしょうか。
では本題に戻りましょう。優勝したヒーローである《エニグマ》は今大会の最大勢力ですが、アグロヒーローに少々不利がついてしまうのが弱点です。その弱点を補ったのが《祝福への感謝》(=《Count Your Blessings》)通称”CYB”を採用したこのリストになります。
優勝リストに9枚採用されたCYBこと《祝福への感謝》は最初は2リソースで1~3点回復と、手札2枚を使う割にコストパフォーマンスが悪いカードですが、終盤になると、墓地にCYBが増えることで2枚で9点などの回復をするようになり強力になります。
CYBはすべてプレイすると、54点もの回復量となり、相手がデッキの攻撃アクションカードを全てプレイしても削り切れないライフを稼ぐことを狙えます。
《エニグマ》はアグロデッキ相手に結界を維持することが困難なため、本来不利としていますが、「結界を維持する」ということをゲームプランとせず、「ファティーグを狙う」ということをゲームプランとすることで本来不利なアグロ相手へ有利となるのがCYBエニグマの特徴です。(ファティーグについてはこちら)
当メディアにて、BH東京で優勝した《エニグマ》についても分析をしていますので、そちらの記事で《エニグマ》の基本的な戦略や採用カードについて触れています。(リンクはこちら)CYB《エニグマ》とそうでない《エニグマ》のリストを比較してみると面白いかもしれません。
ではリストの分析に入ります。
《エニグマ》リスト分析 -装備品-
Fabraryリンクはこちら
[Red]
3:《Astral Etchings》
3:《Command and Conquer》
3:《Count Your Blessings》
3:《Fate Foreseen》
3:《Oasis Respite》
3:《Sigil of Solace》
3:《Sink Below》
3:《Spectral Manifestations》
3:《Waning Vengeance》
3:《Waxing Specter》
[Yellow]
3:《Count Your Blessings》
3:《Restless Coalescence》
[Blue]
1:《A Drop in the Ocean》
1:《Amulet of Echoes》
3:《Big Blue Sky》
3:《Cosmic Awakening》
3:《Count Your Blessings》
3:《Essence of Ancestry: Mind》
1:《Homage to Ancestors》
3:《Levels of Enlightenment》
3:《Manifestation of Miragai》
1:《Pass Over》
1:《Preserve Tradition》
3:《Rage Specter》
1:《Rising Sun, Setting Moon》
1:《Sacred Art: Immortal Lunar Shrine》
3:《Second Tenet of Chi: Wind》
2:《Sift》
3:《Warmonger’s Diplomacy》
[Weapon]
《Cosmo,Scroll of Ancestral Tapestry》
[Equipment]
《Calming Gesture》
《Crown of Reflection》
《Fyendal’s Spring Tunic》
《Phantasmal Footsteps》
《Silent Stilettos》
《Stonewall Gauntlet》
《Traverse the Universe》
CYB《エニグマ》において特徴的な装備は《幻影の足音》です。《エニグマ》は基本的に結界オーラを守るための結界3の装備として使用できる《経路の道》を装備してきました。が、CYB《エニグマ》は《幻影の足音》を基本装備とします。
《祝福への感謝》は2コストのカードなので、相手ターンに青ピッチしながら《祝福への感謝》をプレイ、浮いている1リソースで《幻影の足音》を防御に使用して1点防御として使用できます。リソースを使い切れるため表現価値的にも優れている上、カードを減らさずに防御値1を獲得できる点はファティーグ戦において非常に活躍します。
デッキの中身が《内なる気》だけになっても、《エニグマ》の能力を相手ターンと自分ターンに起動して《霊気の盾》トークンを出しつつ、《幻影の足音》で防御すれば、カードを減らさずに毎ターン3点分ライフを守ることができます。6点以上の攻撃を防御していると破壊されてしまうデメリットも「野人」クラスが少ない環境なのでネックになる試合は少なくなります。
更に、《ダッシュ I/O》や《ヴィセライ》は攻撃の後にアクションカードを使用/アクションの起動をして戦闘チェインを切ることがよくあります。その際は一度防御に使用した《幻影の足音》をリソースを払わずに防御1点として使用できるため、1リソースで2点のライフを稼ぐことができます。CYB《エニグマ》を相手にする際には無用に戦闘チェインを切って、損しないように気を付けましょう。
腕装備《静穏の仕草》は秘術防壁1を持つ装備なので秘術ダメージを与えてくる相手に装備するのは勿論、《エニグマ》ミラーなどでもインスタントタイミングで《霊気の盾》を作成して、《星霊の食刻》をリアクションステップでプレイし、相手の防御を超えて「結界」カードを破壊するプレイが狙えます。
なので、《エニグマ》や《ヌゥ》など秘術ダメージを与えてこない相手にもこの装備で戦うと思われます。特に《ミラガイの顕現》を対象に《星霊の食刻》をプレイするコンボが決まれば+1カウンターを3つ置きながら結界の値が3上昇し、《ミラガイの顕現》の打点を6点上昇させることができるため、多くの《エニグマ》のリストにこのパッケージが採用されています。
腕装備の《石壁の籠手》はサイドカードとして運用され、おそらく《ダッシュ I/O》、《アザレア》など秘術ダメージを与えてこず、物理一辺倒な相手にファティーグを狙う際に使用するのでしょう。
《エニグマ》リスト分析 -メイン-
《大きく青い空》は通常の《エニグマ》でも「青い防御リアクション」として使用して「超越」するために採用されることもあるカードですが、CYB《エニグマ》では《大きく青い空》を通常の《エニグマ》より強力に使用できます。というのは相手ターンに《祝福への感謝》をプレイすることで青ピッチをするプレイことが多く、概ねⒹ3-4点の青い防御リアクションとして運用できるからですね。
《宇宙の目覚め》は《エニグマ》ではあまり採用されてこなかったカードですが、ファティーグをプランとして持つこのCYB《エニグマ》では3枚採用です。3枚採用しておけば1-2枚防御に使っても1枚はプレイできたり、お互いCYBを採用しているCYBミラーなどの非常に多くのライフを削りあう試合では3枚プレイして60点出すこともプランとして持てます。
《欠ける復讐》は通常のエニグマでも採用されるカードですが、CYB《エニグマ》は相手ターンに2リソースを消費することが多いので《幻影の足音》同様、相性が良いです。《エニグマ》ミラーのような攻める必要があるゲーム展開では打点源として使用でき、ファティーグを狙う際には1コスト4点の防御リアクション(分割可能)のような働きをしてくれます。
《癒しの印》は一般的な《エニグマ》には採用されないカードですが、CYB《エニグマ》ではCYBに加えてのライフ回復カードとして採用することで、CYBの54点+《癒しの印》3枚の9点の回復量で相手のデッキ切れを狙うことができます。ファティーグを狙われた対戦相手は攻撃せずに闘技場にカードを展開したり、アーセナルにカードを置いたり、ターンの出力を下げて赤ピッチをしてピッチスタッキングを狙うといったプレイをする必要に駆られますが、それらの準備をしている間にライフ回復をしたり「結界」を展開することで更に相手が削る必要のあるライフを増やすというプレイは非常に強力です。
《祖先の核心:心》は青の防御値3と基本的な性能を持ちながら、手持無沙汰な時にプレイする結界2としても悪くないです。《ヌゥ》相手では、武器の攻撃を軽減しつつその次の青い攻撃アクション《惹きつける予後》や《苦悶の束縛》などを軽減できる可能性があるため、相手の武器を振りづらくさせることができます。
《Sift》は青の防御値3でありかつ「続行」を持つ希少な汎用クラスのカードであり「超越」に貢献するため、しばしば神秘ヒーローに採用されてきましたが、CYB《エニグマ》においてはCYBをドローする確率を高めるという役割も持ちます。CYBデッキは早期にCYBをプレイして、墓地のCYBの枚数が増えていくのが早いほど勝ちやすくなります。
1枚だけ採用されている《残響のアミュレット》はおそらく《アウローラ》へのサイドカードです。《孤光の稲妻》や《Flicker Wisp》を複数枚同時使用するコンボへの対策でしょう。各1枚ずつなら恐らく耐えきりますが、これらが重複してかつ《金》トークンなどによるドローや装備品の起動などが重なると耐えきれないため、そのコンボを防ぐためのカードと思われます。実際にWorlds Top8での対戦でRob Catton選手がプレイする《アウローラ》相手に《残響のアミュレット》をプレイしている様子が確認できます。《光速移動》を何回も回収してターン内に連続攻撃するプレイするへの対策にもなりますね。
サイドインアウト
大きく、「ファティーグを狙うか」「ファティーグを狙わないか」で残すカードが変わるデッキです。
「ファティーグを狙う」マッチアップである《ダッシュ I/O》、《アウローラ》、《ヴィセライ》などにはおそらく《満ちる悪霊》、《安息無き合体》などの結界オーラカードをサイドアウトします。防御に回る際《満ちる悪霊》は2リソースで3点、《安息無き合体》はカード1枚で2点と効率の悪い防御札になってしまいます。また、防御に使用できない超越カードも減らすでしょう。4枚の超越さえあれば十分かと思われるため、《聖なる技:不死の月の社》などはサイドアウトされるでしょう。
「ファティーグを狙わないマッチ」の場合恐らくCYBこと《祝福への感謝》や《Sigil of Solace》をサイドアウトすることになります。特に《エニグマ》ミラーでは相手の結界に干渉できない場合、どれだけのライフがあっても意味がないので、ライフ回復カードをほぼすべてサイドアウトするでしょう。
CYB《エニグマ》の弱点
CYB《エニグマ》は「アグロに強いエニグマ」と説明しました。連続攻撃が苦手な《フローリアン》や《ヌゥ》には《エニグマ》の結界オーラの強みを押し付けて、アグロデッキにはCYBによるファティーグを狙うことができる、というと完全無欠なデッキに聞こえますが、当然欠点もあります。それは《エニグマ》ミラーで不利になりやすい点です。《エニグマ》ミラーは先に「結界」オーラを展開して、「結界」オーラを守り、一方的に「結界」オーラで攻撃できるようになった方が試合に勝利する、盤面の取り合いのゲームとなります。
その際に従来採用されている《変幻する蜃気楼》や《Phantasmclasm》などの攻撃アクションを採用していない為、結界オーラで攻撃→攻撃アクションで攻撃といったターンが作りづらく、相手の結界オーラを破壊しづらい点や、サイドアウトしても青などは残ることが多い《祝福への感謝》に防御値が無いため、結界オーラを守りづらい点などがネックとなります。
恐らく世界選手権でも発生したであろう、《エニグマ》ミラーをGrzegorz Kowalski選手がどのようにして制したのかは私は知りません。が、《亡霊の顕現》などはおそらくミラー意識のサイドカードでしょう。ミラーにおいて残せば大きく有利となる+カウンターが乗った《霊気の盾》トークンを作成するカードだからですね。また、《星霊の食刻》のインスタントプレイもやりやすくなりますね。青ピッチして《亡霊の顕現》プレイした後、《霊気の盾》の一回目の攻撃は0コストで可能なので、浮いた1リソースで綺麗に《星霊の食刻》がプレイできます。
CYB《エニグマ》は上述の通りミラーマッチで不利を抱えやすいデッキですが、ミラーをあきらめたりはせずしっかりとミラーにもゲームプランを持った、非常によく練られたデッキでしょう。
Grzegorz Kowalski選手、世界選手権優勝おめでとうございます!
来週は引き続きWorldsのTop8リスト、他7つのリストについて分析していく記事を予定しております。
以上です。お読み頂きありがとうございました。
Hiroyuki Tansei/どくいろ @fab_dokuiro
お気に入りヒーロー:《Lexi》,《Fai》,《Kayo》
お気に入りカード:《Art of War》
ホームショップ:TableGameCafe’Shuffle、TCG Shop Go Again
史上初の日本選手権で優勝。CallingTokyoTop8。日本屈指の強豪プレイヤー。手数、打点を読む洞察力が強み。アグロデッキが得意。
みんなのコメント
-
カードに指定されるかもって考察されてますよねぇ
コメントを残す
「コメントを送信」ボタンを押すとガイドラインに完全に同意したものと見做されます。
規約に違反する書き込みは削除・編集が行われる可能性がございますので何卒ご了承ください。